南アルプス南部縦走 (赤石荒川
 
 
(2003.7.28〜8.2)
S. IWASA
 昔はアプローチが不便な上、山小屋の設備も十分でなく、基本は天幕縦走だったので、体力と日程に余裕がなければとても手の届かない山域だった。 いまは、東海フォレストが大々的に手を入れ登山者を積極的に受け入れてくれるので、だいぶ草臥れた我々でも何とか行けるようになった。
7月28日

   今年は梅雨明けがハッキリしない。当初20日出発が何回も延期になり、とうとう梅雨明け宣言を聞かず見切り発車となった。節約第一の身分なので新幹線はやめて在来線特急にする。在来線は不便だ、東海道線と言うより、熱海まで、浜松まで、名古屋までのようにぶつ切りになったローカル線がつながっていると理解しないと腹が立つ。
  静岡着ここから畑薙ダムまで3時間バスに揺られてゆく、途中二回休憩があり、空腹なので茶店でおでんを食べる。畑薙では東海フォレストのマイクロバスが待っていてすぐ乗れたのでそのまま椹島へ。2時半、部屋に入るや否やまず弁当を平らげる。椹島のロッジは清潔に暮らすことができ、まずは快適な登山基地。部屋は4人部屋で丁度良い、トイレ、風呂も清潔だ。
  外へ出ると谷間の平地をたっぷりと使って宿泊棟の他、売店・喫茶、シャワー・コインロッカー小屋などが適当に立ち並んでいる。往時はここを基地として東海パルプが山林伐採を盛大に行っていたのであろう。多分これから奥地の飯場でキツイ労働の日々のあと、ここへ戻って休養をしたのではないかと思う。
  夕食は幕の内弁当風のもの結構美味しい。明日の支度をし、下山はここへ戻るので置いて行ける物はまとめてコインロッカーに預ける事にする。今晩預けると一日分余計取られるので、明日出発前に預ける事にする。こういう細かいことは女性に任せるのがよい。

7月29日 椹島〜聖沢小屋
   4時半起床、今日から生活のリズムは平常より4時間ほど繰り上がる。空模様はあまりカンバシクないが雨にはならないような感じ。6時に聖沢登山口までの無料の送りバスが出る。酷い道を10分ほど走るが、歩けば一時間はかかる。登山口で身支度をして聖沢の釣り橋までは緩やかな登り、この後樹林帯の急登が続く、だいぶ高度を上げた所で早目の昼食、弁当はおにぎり2個¥500まあ適当な所か。 一時雨が強く降ったがやがて晴れ間も出る。イブキジャコウソウの大きな群落があり、岩陰には見事なギンリョウソウが集まって咲いていた。大きな枝沢の源頭のガレ場を越えると間もなく展望の良い岩場に出る。覗き込むと聖沢がだいぶ細くなり、奥聖からの沢が途中3段の滝になり聖沢に注いでいるのが見える。順調に登ってきたし、あとは聖沢の小屋まで僅かなので、ゆっくりお茶を沸かして休憩にする。 


聖岳登山口


ギンリョウソウ


イブキジャコウソウ


聖沢上部


新旧聖平小屋
   聖沢の源流近くの緩やかな台地に聖沢小屋がある。下手には昔の小屋もありいまだに使われている。一時半到着。光岳へ向かう人もいて小屋はかなりの混雑。この小屋は東海フォレストではなく静岡県営で、井川山岳会が運営を委託されている。今回の小屋の中では最低ランク、福神漬けだけがついたレトルト風カレー、寝具はシュラフだけで¥1000。運営を委託されている井川山岳会には気の毒だが、山小屋の経営は素人がするべきものではないように思う。
3時過ぎに外に作られた乾燥小屋のストーブに火が入ったことだけは評価できるが。夜になって雨が激しくなる。快適ならざる小屋で激しい雨音を聞くのは気分が滅入るものだ。
7月30日 聖沢小屋〜百間洞山の家
  4時半朝食、5時出発。雨は激しい。時々風が強く吹き付ける所はあるが聖頂上までは案外簡単登りつく。雨は止む気配は全くなし、ガスも出て百間洞まではかなり厳しそう。初めて山行を共にする人がいて体調を計りがたい。だれでも晴天の時と悪天候の時とでは体調にかなり落差があるが、一般的に女性のほうがこの落差が大きいように思う。暫し躊躇ったが予定通り百間洞へ行く事にする。兎岳のコルへの下りは結構厳しかった。兎岳の避難小屋はヤット雨を凌げる程度だが、先着の若者2人が気持ち良く場所を空けてくれる。立ったままではあるが弁当を広げ、お茶を沸かして飲む。若者達は何かと気を使ってくれる。嬉しいネ、こんな若者に会えるとは。
  これでグント元気が出て再び歩き出す。小さなアップダウンが続き、中盛丸山を越え百間洞への新道の入り口に入るまでは激しい風雨に打たれる。
新道は樹林の中で風陰になっているのでほっとするが、30分と出ていたのにその長いこと、気が緩んだのか木の根に乗って滑り転倒ストックの手皮(ナイロンベルト)で手の平を切ってしまった。応急手当をして、ようやく小屋に到着、一時半。
  小ぢんまりとした小屋だが良く出来ている。若い小屋番が取仕切っているが中々良くやっている。夕食は揚げたての豚カツ、美味しかった。一回8人分ぐらいで順番に本当に揚げ立てを出してくれる。小規模の小屋だからできる事だが、心のこもったやり方は素晴らしい。乾燥設備が今一だがストーブを囲んで濡れた物を乾かしながらお喋りが続く。雨具は全く用をなしていない、もう10年以上になるから仕方がないか。それでも、予感がしてパンツ1枚の上に雨具だったので、小屋について直ぐに乾いた物に着替えられたのはラッキーだが、途中は随分冷たかった。


聖岳山頂
7月31日 百間洞山の家〜荒川小屋
  夜中に雨は上がった。夜半の空に大接近中の火星とペルセウス座を見た。5時出発、百間平の取り付きまではあまり展望は良くないが、取り付きの稜線コルへ出ると眼前に北アルプス、中央アルプスが展開する。兎に角写真を撮りまくる。百間平へ出ると背後に聖岳、眼前に赤石岳、遠く塩見岳、仙丈岳まで望むことができる。生乾きの雨具を広げて干し、スケッチ、写真と忙しい。昨晩ストーブ談義で盛り上がった若い女性と一緒になり、馬の背を快適に歩き、赤石岳の大斜面を登り詰める。赤石岳避難小屋は素晴らしい位置に立つ、夏は小屋番が入り普通に宿泊ができる。
  頂上で昼食、今日の昼食は小形の天ムス2個と小形のお握り2個、美味しい。周りはガスが出ていても頭の上は青空だ。ゆっくり休んで小赤石へ、途中で赤石小屋経由椹島への道を分ける。小赤石を越えると目の下に緑の大聖寺平が広がる。雪田の脇で風をよけ眼前に荒川岳を見ながらゆっくり休憩。今日は天気も良く、気分も良いから全て順調。
  荒川小屋へのトラバース道を辿ればじきに荒川小屋だ。12時15分着。 この小屋も快適だ。まだ日が高いので裏の柵の上に良く乾いていない物をみんな広げて、小屋の脇のテーブルとベンチに陣取り山を見ながら焼酎のポカリスエット割り、冷たい沢水で作ったポカリだからとても美味しい。
  この小屋の夕食はカレーだが、街の一寸したカレー専門店を凌ぐ美味さ。しかもお代わり自由だ。普通は次の泊まりは千枚小屋だが、団体が入ると言う情報なので、明日は荒川岳・千枚岳を越えて一気に椹島まで下る事になり早寝をする。静岡市街の上空辺りであろうか稲妻が薄紫の光を走らせているが音は聞こえない。


百間洞山の家


遥かなる北アルプス


百間平からアルプス


聖岳、百間平


百間平、赤石岳中腹


聖岳、赤石岳中服


荒川三山、大聖寺平


オンタデ


タカネヤハズハハコ


メイゲツソウ(オノエイタドリ)
8月1日 荒川小屋〜椹島
   5時出発、百間洞から一緒に登って来た女性2人組は朝食を小屋で取らずに随分早く出発したようだ。出来れば今日中に静岡まで出てしまいたい等と言っていたが、若い元気は羨ましい。


荒川小屋と赤石岳


中岳お花畑


堂々たる赤石岳


ご来迎


霧湧く山稜


荒川中岳から東岳


荒川東岳(悪沢岳)
   中岳のカールの手前の斜面はすばらしいお花畑、クロユリが大群落をなしている。ハクサンチドリ、イワギキョウ、イワベンケイ、シナノキンバイ、ミヤマシオガマ、トリカブト……タップリ時間をとって撮影。中岳の稜線に上がるとガスが濃くなるが上空は青空だ。ガスの中でブロッケンが出た。手を振ると丸い虹がゆらゆらと動く。これほどはっきりとしたのを見たのは過去にないように思う。昔の人はご来迎と言って拝んだ気持ちがよく分かる。上空は晴れているが荒川岳の主峰悪沢岳の頂上も周囲の展望は恵まれなかった。少し先の丸山でお茶を沸かしてゆっくり昼食。千枚岳を越えればあとの下りはルンルンの歩き易い道と聞いていたので、気分はノンビリ。

シナノキンバイ


チョウノスケソウ


ハクサンチドリ


クモマグサ


クロユリ

シロバナタカネビランジ
  ギャップを下り千枚岳に登り返すこの途中でシロバナタカネビランジを見つけた。初めてお目に掛かる花だ。タカネビランジは南アルプス特産だが、北部は淡いピンクでこちらは単にタカネビランジと呼ばれている。南アルプス中・南部にシロバナが多く、特にシロバナタカネビランジと呼ばれている。
  千枚小屋までは気軽な山道。千枚小屋からは樹林帯で展望は殆どない。清水平で水を補給して更に下る、小石下までは確かに長いけれども歩き易い道だ。しかし、ここからは一変した。アップ・ダウンがあり、しかも道は余り良く踏まれていない。間違えたかと疑うことが何度もあった。日差しは暑く予想外の道に消耗した。ようやく椹島へ到着。4時過ぎだった。早速風呂に入り生き返る。
   夕食はこのロッジ2泊目の下り組は別メニューになっている。こんな気の使い方も良い物だ。今日は泊り客が少ないのか食堂の入れ替えはなく、すっかりくつろいでビールを飲んだ後、やはり日本酒がほしいといったら離れた売店まで買いに行ってくれた。明日はバスで下るだけだからノンビリしたものだ。
8月2日
  今日は良い天気だが、上のほうは相変わらず雲が掛かっているから山は多分昨日と同じような天気なのだろう。8時10分のバスの出発まで、朝の爽やかな空気のなかで周囲を歩いたりお茶を飲んだり、お土産を買ったり。昨日下ってしまったと思っていた若い女性2人組は、我々より後に椹島に着いたとのこと。中岳の避難小屋で朝食を取っている間に我々は追い越してしまったということだ。彼女たちはきっと追いつかれるからと呑気に歩いていたそうだ。この二人はネット山岳会で出会って、実際に一緒に歩いたのは今回が初めてだそうだから、これも新しい動きなのだろう。畑薙ダムまで下ると暑い夏が出迎えてくれる。静岡まではまた3時間のバスの旅だ。  


椹島
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