小丸は塔ノ岳から鍋割山へ続く稜線の途中にあり、ブナ林の美しいところだ。小丸への登山道は塔ノ岳への登山道の大倉尾根と鍋割への登山道との間の尾根にあり、両側の登山道に比べこの道を利用する人は少なく、比較的静かな山歩きができる。
登山道はバスの場合は、渋沢から大倉まで行き、そこから林道を一時間ほど歩くと二股の登山道に到着する。車の場合は登山道のすぐ近くまで入ることができる。

今年は記録的な暖冬で丹沢では本格的な降雪はほとんど無かった。3月下旬には桜の花がほころびはじめ早くも花見かと思っていたら突然の寒波で丹沢の峰も新雪に覆われてしまった。
しかし登山道へ向かう途中の日当たりのいいところにはすでにスミレの花が咲き、本格的な春ももうそこまできているようだ。

登山訓練所を過ぎ浅い川を渡ると小丸への登山道が現れる。この道をまっすぐ進むと鍋割への登山道になるのでうっかりすると見過ごしてしまう。

登山道に入るといきなり杉林の急な斜面になる。丹沢、特に東丹沢は植林が多く杉林の中を歩く道が多い。林の中はまったく周囲の景色も見えずただひたすら歩くだけの単調な時間が続く。

しかし単調な杉林もすぐに終わり広葉樹の林に変わると視界も開け、前方に塔ノ岳が見えてくる。
このあたりは4月も終わりころになると一面新緑に包まれすがすがしい気分で歩くことができる。広葉樹林を回りこむように上がるとその先は松林のの平坦な道に変わる。

道はしばらく緩やかな広葉樹の林の中を歩くとベンチ跡に出る。
この先は再び杉林の急斜面になるのでここで少し休んでから出発するとよい。

杉林の中の道は次第に傾斜を増してくる。昨日降った雪がうっすらと林を覆い始め時々頭上から雪が落ちてくる。
高度を増すにつれ雪は多くなり、いつしか雪道に変わってしまった。
杉林の急なのぼりがやっと終わると左には鍋割り山が見えてくる。

杉林を抜けると道も半ばを過ぎ稜線もまじかになってくる。周りの景色も次第によくなり、富士の姿も見えはじめ、振る返ると相模湾が視界いっぱいに広がる。

道はいよいよ最後の登りにさしかかる。このあたりはアセビの木が多くすでにつぼみも見られ、まもなく可憐な白いアセビの花が一面に咲くだろう。

小丸の稜線ももう一息だ。周囲の展望を楽しみながらつづら折れの道を進むと急に樹林帯を抜け道は平坦になる。やっと小丸に到着だ。
小丸からは今まで見えなかった丹沢東尾根の稜線に続く三ノ塔や大山が姿を現す。

稜線に出ると道は左右に分かれる。右は大丸をとおり塔ノ岳へ、左は鍋割山へ行く道になる。大丸のぶな林が美しいので右の道を進むことにする。
昨日降った雪が山頂では10センチほどの積雪になり、木々の枝には霧氷も見られる。
稜線からはこれまで反対側で見られなかった丹沢主稜線の蛭ケ岳や檜洞の山が他の山を圧するように連なっている。

小丸からは大丸までは平坦な道が続く。大丸に向かうにつれ林はしだいに広がり、ブナの大木も多く見られるようになる。
雪道を10分ほど歩くと大丸のブナ林になる。丹沢のブナ林は近年急速に立ち枯れが進み、大丸のブナ林にも立ち枯れが目立つようになったが比較的豊かな林が残っている。
大丸は北側に斜面が広がるため積雪量も多く、木々の枝は霧氷で真っ白だ。霧氷を逆行で見ると光に反射した氷がまるで宝石のように美しい光を放つ。

小丸ではほとんど融けかかっていた霧氷もこのあたりまで来るとまだ美しい霧氷が残っており、林は白一色だ。
丹沢の冬の最大の楽しみはブナ林の美しい霧氷を見ることだが、近年降雪も少なくなり霧氷を見るチャンスもめっきり少なくなった。以前は一冬に何度も美しい霧氷が見られたが、ブナの立ち枯れとともに霧氷も次第に見られなくなっていくのは残念だ。これも人間に対する自然の警告だろうか。

道は大丸からいったん下ると大倉尾根に合流し左へ進路をとり上り道をあがると塔ノ岳に出る。塔ノ岳から丹沢山に向かう道も以前は美しいブナ林だったが今は見る影も無い。
下山は同じ道を下ってもよいが車でない場合には塔ノ岳から表尾根を縦走してヤビツ峠に出ることもできる。時間に余裕が無ければ大倉尾根を下山するのがもっとも早い。車の場合は大倉尾根の途中から二股に戻る道もあるので、時間と体力に応じてコースをとるとよい。

山と花のアルバム  
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