中国・リーロン周辺のフラワーウオッチング (1999/07/15〜1999/07/24)

中国四川省のリーロン一帯は高山植物の宝庫。周辺の山々は一面の花畑に覆われ、その規模の大きさに驚かされる。コース途中のパーロ−シャン峠は標高4000mを越え、峠一帯にはブルーポピーの群落を始め色とりどりの美しい高山植物にあふれている。また一面菜の花に覆われたリーロンの村ものどかで美しい。

ウオロンは成都から西へバスで1日のところにある小さな村である。この村の名前を知る人は多い。それはここにはパンダの飼育場があり観光で訪れる人も多いからだ。パンダの飼育場には数十頭のパンダが飼育されており、一般の人がこれほど多くのパンダを見られるのはここだけだろう。また直接パンダに触れることも出来、特に女性には大人気であった。 ウオロンは小さな村だがパンダ見学の観光客が多いことからホテルや宿泊施設があり、ホテルの前には毎日道の両側に土産ものを売る店が並び、工芸品や小物のほか農産物や薬草なども売っている。

 

飼育場のパンダ

 

山一面を覆う花畑

ウオロンからリーロンまではわずか70Kmほどしかないが途中4000m以上の峠を超える山岳部を走るため丸一日かかる。村を出ると周りは両側を絶壁のような山に挟まれた峡谷になる。このあたりの山はかなり急傾斜にもかかわらず緑に覆われておりあまり山肌が剥き出しになっているところは無い。自然のままに保たれているためしっかり植物が根をおろしているのだろう。しかし、道路はかなり雑な造りで、あちこちに崩落の後がある。安全性より経済性優先のため少々の危険は無視して工事を進めているのだろう。両側の山が迫り、まるで山水画のような景色がしばらく続く。
何度か工事で足止めをくらいながらもいつしか樹林帯を抜け、山は一面緑のじゅうたんに変わってきた。遠目には緑一色だが、近くにくると実におびただしい色とりどりの花が咲き乱れ、山全体が花で覆われている。遥かかなたの山まで延々とお花畑が続く。花の種類はかなり多く、フウロウやシオガマ、アズマギク、サクラソウ、場所によってはアヤメの群落などもあるが、名前のわからないものも数多くある。とにかく延々と続く山は道路以外は頂上まで全て花で埋め尽くされている。これほど広大なお花畑はもちろん見るのは始めてであり、世界広しといえどもこれほど広大なお花畑を見らるところは少ないだろう。この大自然がいつまで後世に伝えられるか中国の現状を見ていると不安である。
高度が4000mに近づくとさしもの緑一面の山も次第に岩が目立つようになってきた。そして4000m近くになると車の窓から一瞬青い花びらが見えた。紛れも無くブルーポピーだ。しかしこのあと道の両側には次々にブルーポピーの花が現れ、こんなに簡単にブルーポピーの花が見られるとは想像していなかった。道の両側の斜面一帯はあっちにもこっちにも色とりどりの高山植物に混じってブルーポピーが咲いている。高度がさらに上がりパーローシャン峠に近づいてくるとさらにブルーポピーの数は増えどこを見てもブルーポピーの花で一杯である。

 

ブルーポピー

 

可憐に咲くサクラソウ

ブルーポピー以外にもレッドポピーやイエローポピーの花も見られる。イエローポピーはブルーポピーと姿形はほとんど同じで色だけ違う。しかしレッドポピーは茎はブルーポピーに似ているが花の形はまるで違う。鮮やかな赤い色をした細長いハッパのような花びらが数枚垂れ下がっておりキキョウに近い姿だ。このあたりいちめんにはポピー以外にもサクラソウや名前のわからない美しい高山植物が沢山咲いている。 次々と現れるブルーポピーの花に興奮し、感動していると次第に周りが荒荒しい岩肌になってくる。高度計はすでに計測範囲を超えており4200mほどであろう。こんな高地でも道路工事が行われている。歩くだけでも息切れしてめまいがしそうなところで肉体労働をしているのには感心する。

上り坂が緩やかになるとそこは巴郎山(パーローシャン)峠である。標高4320m。真夏だと言うのに近くの山は雪化粧をしている。 峠を超えると比較的緩やかな斜面が続く。ウオロン側は一面の緑であったが、こちらの斜面は緑が少ない。でも高山植物は多く、ケシの花もいたるところに咲いている。やがてブルーポピーの姿も消え、長いくだり坂を下りきると今日の目的地リーロンの村が見えてくる。 リーロンは標高3200mほどの谷あいにあり一面菜の花の黄色に覆われたのどかな山村である。

今日から3日リーロンの招待所に宿を取りこの近くの山でフラワーウオッチングをする。 招待所は一部屋3〜4人のベッドがあり決して快適とは言えないが山小屋に比べればはるかに快適である。ただしここのトイレにはちょっと戸惑ったが2〜3日も使っていると抵抗感も無くなってくる。慣れとはおそろしいものだ。

 

菜の花畑に包まれたリーロンの村

 

貸衣装の親子

リーロンの2日目は村から少し離れたところにあるラマ教の寺院までフラワーウオッチングをしながら歩く。村はちょうど今菜の花の盛りで、道の両側には菜の花畑が続き黄色の花が谷を埋め尽くし、リーロンの村は一面菜の花で覆われている。 村のはずれに来ると4〜5歳くらいの子供を連れた若い女性が我々の後についてきた。一体この女性はなぜ我々の後についてくるのだろうと不思議だったが、ラマ教の寺院についてその女性の目的がわかった。観光客にチベットの衣装を貸して記念写真をとらせるのが目的だった。
フラワーウオッチングというと山上に広がるお花畑を歩くことを想像するが、今歩いているのは農村のただの道で、時には農家の庭先を歩くこともある。現地の人からすればなぜこんなところを歩いているのだろうかと不思議に思われるかも知れないような平凡な農村の道である。しかし道の両側には色とりどりの花が咲き乱れている。村人には単なる雑草でしかないのかも知れないがどの花も日本では高山でしか見られない美しい花々である。

 

農家の老婆と子供

 

学校の校庭で遊ぶ子供たち

村のはずれに来ると子供たちが空き地で遊んでいる。ここは村の小学校で10人ほどの子供が狭い運動場で遊んでいる。学校といっても小さな教室があるだけで運動場にはなにもない。日本のように立派な校舎も遊び道具も設備も何もないが子供たちは活き活きとして楽しそうに遊んでいる。道に沿って家が数件並んでいる。老婆と子供が我々を珍しそうに見ている。 道の両側はずっと花で覆われており、ピンクのシオガマやワスレナグサなどの背丈の高いものの下にはリンドウやエウスユキソウ、サクラソウなどの可憐な花もたくさん咲いている
花を見ながらゆっくり2時間ほどで目的地のラマ寺院に到着する。かってここはラマ教の寺院だったが文化大革命で破壊され今は廃墟となった寺院がひっそりと残っている。寺院の先にはスークーニャンのいただきを望むことができる。

 

廃墟となったラマ教寺院

 

花畑の続く稜線

リーロン3日目は村の近くにある山の稜線に上がり、山頂一体に広がるお花畑を歩く。道は稜線に近づくにつれ傾斜は急になるがまったく危険なところも無く、道の両側に咲く色とりどりの高山植物を見ながら2時間ほど歩くと突然広々とした稜線に出る。稜線は一面白い花に覆われ、その光景が山のはるかかなたまで続き中国の山のスケールに圧倒される
全体的には白い花が多くエーデルワイズの群落がいたるところにあり、ピンクのアズマギクの花もたくさん咲いている。しかし花の量では圧倒的だが種類は意外と少ない。むしろ登山道の方が珍しい花や多くの種類を見ることができる。 あいにく天気が悪く小雨まじりになり視界も悪くなってきたので目的地の手前で引き返すことになった。

 

ウスユキソウ

 

ガラス細工のようなブルーポピーの花びら

リーロン4日目、といっても今日はもう帰る日である。帰りにこのトレッキングのハイライトであるブルーポピーが一面に咲くパーローシャン峠を散策する。 出発の準備をすませバスが出発するとすぐ給油所に止まった。しかし、燃料が無いということなので村へ戻ることになった。日本なら当然事前に補給をしておくのだろうがこちらではそこまで用意周到ではなさそうだ。さて村に戻ったところでガソリンスタンドがあるわけではない。ちょうど村に停まっていたトラックと交渉して燃料を分けてもらうことができた。
出発時間を大幅に過ぎやっとバスは走り出した。リーロンの村が次第に遠ざかりやがて視界から消えると今度は高山植物が道の両側に現れてくる。パーローシャン峠に近づくと小雨がいつしか雪に変わり、峠の周りの山は新雪に覆われている。標高4000m以上の高地では真夏といえども雪をみることがある。峠に近づくと待望のブルーポピーの姿が現れてきた。

峠を過ぎしばらく下ったブルーポピーが一面に咲く場所で車を止め、そこから少し下まで花を見ながら歩く。雪はやんでいたがまだ小雨が降り続いていた。しかし思ったほど寒くは無かった。それもきっとブルーポピーの美しい姿に感動し寒さを感じなかったのかも知れない。ブルーポピーの花は小雨と寒さのためどの花も花びらをややたれ寒さにじっと絶えているように見える、しかしまじかで見るブルーポピーの花はとても美しい。色もよく見ると紫から透明感のある薄いブルーまでさまざまな色がある。特にガラスのように透きとおった青い花は、まさに高山植物の女王にふさわしく、その魅力的な美しさに思わず見とれてしまう。

 

レッドポピー

 

サクラソウ

このあたり一面にはブルーポピー以外にも赤いレッドポピーやサクラソウなど多くの高山植物がいたるところに咲いている。もしブルーポピーが咲いていなければこれらの花の美しさに感動するところだが今はゆっくりと見ている余裕がない。希薄な空気の中で一枚でも多くブルーポピーの写真をとりたい。しかし、あっという間に出発の時間がきてしまった。
再びバスに乗り峠を下り始めた。相変わらず道の両側にはブルーポピーの花や可憐な高山植物の花々が咲きこのままバスに乗って走り去っていくのがとても残念だ。 次第に高度を下げるに従いいつしかブルーポピーの花も姿を消し、変わって山の斜面一面が広大なお花畑になる。この広大な花畑には行きにもそのスケールに驚いたが延々と続く山一面の花畑にはただただ驚き感動する。この広大な花畑をいつまでも世界共通の遺産として残してほしい。
峠では寒さにふるえていたがいつしかバスの中の空気も次第に熱くなり下界に下りてきたことを感じる。 一面のお花畑もいつしか潅木に覆われるようになってきた。潅木の中にはバラの花が多く見られる。中国のバラは四季咲きであり現代バラの代表であるハイブリッドティーの元になったものである。中国にはかなり多くの種類のバラがあるようだが、ここで見かけるのは薄いピンクの一重の花びらを持つ日本のサンショウバラに似た花である。あいにく近くでじっくり見ることができなかったのでよくは分からないがいかにも原種といった素朴な美しさを感じさせるバラである。
山と花のアルバム